□第一回「芭蕉記念箱根俳句賞」

【選考委員】
伊藤白潮・榎本好宏・藤田あけ烏・佐川広治・七田谷まりうす・
江口克彦・向田貴子・小橋久仁・寺島ただし・遠藤若狭男・
菊田一平・稲畑廣太郎

【選考総評】
第一回であり知名度もないのに応募総数が五千句を超えたことは、選考委員としても
張り合いがあり、選考にも力が入った。加えて、箱根で詠む、芭蕉にちなむ、といった
条件も重なり、選考の段階でかなりしぼらざるを得なかったこともあった。にもかかわらず、
いろいろな条件を満たした入賞句が選べたのは、応募者各位の質が高かったということだろう。
春から冬まで、季語は四季にわたっているが、上位に推された作品は春にやはり偏らざる
を得なかったようだ。それと固有名詞の使用が多くなったのも、こうした賞の性質上仕方の
ないことで、それらをクリアして、かなりの佳句が選べたことを、各位と共に喜び合いたい。
次回は更に盛大になることを願って。     
  

俳句選考委員長   伊藤白潮

   

・大賞一句〔賞状/副賞「箱根細工/箱根ホテル小涌園ペア招待券〕

頬白や早川に日のあふれをり  谷 雅子(東京都)

〔選評〕頬白は留鳥だが春を告げる季感があり、目の上の二条の白線が特徴で、
「一筆啓上、仕り候」などと聞きなされ、いかにも明るい声だ。
早川に溢れる日と相俟って見事に定着した。

・優秀賞一句〔賞状/副賞「箱根ホテル小涌園ペア招待券〕

春の山暮れて囲める芭蕉膳  細井紫幸(神奈川県)

〔選評〕ホテル小涌園の特別料理を即時に詠み込んで、
春の一夕をゆったりくつろぐ作者の心懐がいい。
思わず膳に載る品を聞きたくもなる一句だ。

・藤田観光賞1句〔賞状/副賞・椿山荘ペア食事券〕

ひめしやらの芽吹いてゐたる箱根越  谷 久子(徳島県)

〔選評〕箱根山中の芽吹きの季節、特に樹肌の白いしゃらの芽は美しい。
かなりの植物通の人の作である。下五の名詞どめも定まっている。

・読売新聞社賞一句〔賞状 副賞・図書カード〕

海賊船より大やんま上陸す  萩原たもつ(東京都)

〔選評〕芦ノ湖に浮かぶ観光船はよく知られるが、
人間よりやんまに目をとめたのが眼目だ。
大やんまだから鬼やんまで、海賊船とマッチしていることもいい。

・伊藤園賞一句〔賞状/副賞・ワシントンホテルペア宿泊券〕

山滴りて芦ノ湖の水位かな  牧タカシ(東京都)

〔選評〕山を伝い下りる地下水が地表に湧き出るのが滴りだが、
この句は、いかにも箱根らしい大景を描いている。
更に湖の水位にまで目を行き渡らせているのがすばらしい。

・秀逸賞一句〔賞状/副賞・B&Bパンシオン箱根宿泊券〕

蚊を打つて登山電車に隣り合ふ  窪田美里(東京都)  

〔選評〕実際に現地を訪れないと詠えないモチーフだろう。

隣りは夫婦でも家族の誰かでもいいが、庶民的な一景だ。

・奨励賞二十一句〔賞状/副賞・箱根ユネッサンペア招待券〕

□樹間より芦の湖見ゆる橇遊び 藤川三枝子(神奈川県)

□天高し箱根馬子唄風に乗り 山田照子(神奈川県)

□風光る湖へ艇庫の扉をひらく 六桐けい(京都府)

□柚湯よりかすかに聞こゆ戦唄 斎藤みさを(東京都)

□此の春も野晒し暮らし翁の碑 行方し乃(神奈川県)

□古文書の関所手形や鳥帰る 加藤しづか(千葉県)

□小涌園湯の香訪ねし寒雀 松谷忠和(山形県) 

□山椿湯煙りに紅映しをり 及川 洋(東京都)

□木の芽風箱根の関所抜けにけり 西澤ひろこ(東京都)

□笹鳴きて山に日差の戻りけり 藤田 夢(東京都)

□草枯れて日の暮れかかる駒ヶ岳 大野信子(埼玉県)

□虎落笛嶮に潜めるものの声 小川夕蛙(岩手県)

□海側の椅子に先客あたたかし 鈴木君子(神奈川県)

□手袋から手をとりだして箱根山 中江三青(鳥取県)

□丹の鳥居揺るゝ湖面やほとゝぎす 太田 梟(東京都)

□箱根山ひとを納めて眠りけり 秦 孝浩(千葉県)

□駅伝の野次馬となる二日かな 中川やよひ(東京都)

□山茶花をほめて親しくなりにけり 保泉一生(埼玉県)

□すみれ草ここは八里のどのあたり 山本 賜(東京都)

□幾何学の模様の箱にとじる夏 阪本明美(奈良県) 

□湯けむりの夜霧に変はる箱根かな 松沢季吽(京都府)

・佳作八十八句

〈優秀佳作九句〉

▽春浅し箱根の山の東(あづま)酒 丸亀敏邦(東京都)

▽夏帽子大きく振つて湖上の子 松木紫水(神奈川県)

▽花の下旅人二人すれちがふ 麻丘夏樹(千葉県)

▽??(まくなぎ)や芭蕉の来たる箱根みち 青柳冨美子(東京都)

▽箱根路は雪もまた良し小湧の湯 会沢優江(神奈川県)

▽駅伝に箱根の冬の順がある 西秋忠兵衛(千葉県)

▽とほき世の雪舞ひきたり関所跡 吉川弘子(神奈川県)

▽かいつぶり夕づく湖をひからせる 居駒 舞(千葉県)

▽−大文字−火の文字うすれ箱根の風涼し 細川普士子(東京都)

〈秀逸佳作二十句〉

▽名月や箱根十七湯を照らす 鈴木芙仁男(東京都)

▽駅伝を待つ間に交はす御慶かな 有永吉伸(埼玉県)

▽ちょっとだけ箱根駅伝伴走す 朝原弘毅(福岡県)

▽山葵田の水の落ち合ふ春隣 高橋宏和(埼玉県)

▽木の洞に青きものあり春きざす 松原百烟(東京都)

▽春なれやきゆるるんと開く寄木箱 荒井八雪(神奈川県)

▽風花の仙石原の明るさよ 奥野周子(神奈川県)

▽旧道の朴の芽吹きの風にゐる 名和未知(東京都)

▽逆さ富士見て福詣終りけり 志村宗明(神奈川県)

▽切り株の囲んでゐたる蝌蚪の水 岩淵喜代子(埼玉県)

▽料哨や湯の滾りたる二ノ平 三浦光子(東京都)

▽湯けむりの箱根八里は雪景色 南田三枝子(神奈川県)

▽湯けむりとうかれ猫とに迎へられ 山口早苗(千葉県)

▽墨色の温泉たまご山眠る 鈴木知八子(千葉県)

▽寒月や外湯めぐりの下駄鳴らし 池内英夫(神奈川県)

▽正面に小涌谷あり秋扇 青木まさ子(東京都)

▽元朝の湖光の鳥居くぐりけり 小川江実(千葉県)

▽外湯まで母をおぶえば牡丹雪 鈴木吉保(愛知県)

▽芦の湖の降るともなしに春の雨 江口来童(神奈川県)

▽湯けむりをまるくあつめし春の月 高林笑夢(東京都)

〈佳作五十九句〉

▽囀りや箱根路を子に手引かれて 多々良友彦(静岡県)

▽温泉(ゆ)に消ゆる雪のひとひら夕霧忌 遠藤千鶴羽(東京都)

▽啓蟄や大涌谷の人となる 大見川 明(神奈川県)

▽春光やいのちふたつに杉大樹 箭内 忍(東京都)

▽関跡の千人溜り風花す 平林恵子(神奈川県)

▽芭蕉句碑欠けしがままに長閑なり 新地 玲(東京都) 

▽小涌谷まだ囀りの届かざる 桑島禎夫(東京都)

▽二ノ平より春昼の山を見る 丹生谷貴司(神奈川県)

▽天地のあはひに二子山朧 柴田孤岩(東京都)

▽登山先づ大権現の鈴を振る 佐藤古城(埼玉県)

▽芦ノ湖へ未明の空をきぎす鳴く 湯浅康右(千葉県)

▽寒明の硫黄にむせぶ力石 石川みさ子(千葉県)

▽残雪や延命といふ黒玉子 角田悦子(神奈川県)

▽如月や宿の玉子のくろがねに 矢田 良(東京都)

▽春の風御関所越ゆる手形かな 御園生眞徳(東京都)

▽木漏れ日のうらゝかになり旧街道 竹本 悠(東京都)

▽噴水の芝庭歩む美術館 鈴木勇一(埼玉県)

▽万緑や雲を払ひし駒ヶ岳 長谷川孝子(東京都)

▽箱根路や春の稜線まなかひに 馬場公江(東京都)

▽妻と来て小涌大涌雪解晴 櫻井幹郎(愛知県)

▽出女の嘆きの声や蝉時雨 阿部文彦(神奈川県)

▽芭蕉忌や箱根路を行く雨合羽 五十嵐 勉(大阪府)

▽峠路は富士を真近に犬ふぐり 澤田洋子(神奈川県)

▽浴衣着て子の諳ずる十六湯 安達秀幸(東京都)

▽風神の春駆け抜けて箱根山 小澤房子(東京都)

▽探梅や足跡つなぐ翁の句 岡 白雲(東京都)

▽箱庭の仙石原でありにけり 秋田春風子(神奈川県)

▽雨あをき箱根権現芽の輪立つ 石井時江(東京都) 

▽海光を返し岨道石蕗は黄に 布施和代(千葉県)

▽初冠雪の富士に手鏡程の湖 久保砂潮(千葉県)

▽芭蕉忌や登山電車を途中下車 良知悦郎(千葉県)

▽雪催行きも帰りも箱根越え 後藤田稚幹(大阪府)

▽湯の宿に小さき祠鳥帰る 小野京子(京都府)

▽初富士や本丸跡も馬止も 金久保悦子(東京都)

▽遊覧船たつぷんゆれて春の波 田中丸木の葉(東京都)

▽一慶事ありて温泉(ゆ)宿の梅椿 西尾澄子(大阪府)

▽霧晴れて大涌谷はなほ煙り 池田晩成(神奈川県)

▽秋風や箱根番所のおどし面 富永浄子(茨城県)

▽探梅の声降りてくる箱根山 古屋牧男(山梨県)

▽虎ヶ雨芦の湖晴れてゐたりけり 岡田貞二(神奈川県)

▽翁忌を修して箱根しぐれけり 伊藤 淳(三重県)

▽鴨の陣海賊船と対峙せり 鈴木三光子(東京都)

▽彫刻の森に鐘鳴る暮春かな 安部由美子(千葉県) 

▽富士さらに大きくなりし秋の暮 阿部浩然(神奈川県)

▽秋深し旧街道に佇てばなほ 砂田怜子(北海道)

▽ロープウェイに手を振り合つて夏終る 永松東興(埼玉県)

▽早雲寺入道雲を招き入れ 小竹竹風(東京都)

▽箱根路や滴る山を打重ね 山岸二郎(神奈川県)

▽箱根路の花の遅速を諾えり 岡本とも子(高知県)

▽十郎か御前のものか落し文 田村正二(埼玉県)

▽参勤の足音きこゆ杉落葉 斉藤諄一郎(神奈川県)

▽逃水のもう逃げられぬ地獄谷 不破元之(富山県)

▽箱根路を傘傾けて広重忌 白根はる女(神奈川県)

▽絵日傘に天を回して箱根ゆく 金栗木曽(熊本県)

▽名の高き関所の跡や鎌鼬 竹澤 聡(神奈川県)

▽早雲寺ヒメハルゼミの声響く 角田芙美子(栃木県)14歳

▽ロープウェイから下を見たら雪がある 皆川拓也(神奈川県)12歳

▽ろてんぶろぼくのあたまにおちるゆき 石橋卓也(東京都)8歳

▽こうようにすいこまれそうはこね道 松田晴菜(東京都)7歳 

                  

 

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